岡山地方裁判所倉敷支部 昭和58年(ワ)230号 判決 1986年7月30日
原告
岡本京子
被告
伊東初音
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金一四六三万五四五一円及び内金一三三三万五四五一円に対する昭和五七年一二月一一日から、内金一三〇万円に対する昭和五九年一月八日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、各自二九七八万二八五七円及びうち二七〇七万五三二五円に対する昭和五七年一二月一日から、うち二七〇万七五三二円に対する昭和五九年一月八日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁(被告ら)
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 (事故の発生)
(一) 日時 昭和五七年一二月一一日午前八時五八分ころ
(二) 場所 倉敷市老松町三丁目一〇―二五先路上(T字路交差点)
(三) 加害車両 小型自家用乗用車(岡五六む三〇三六)
右運転者 被告伊東初音(以下「被告初音」という。)
(四) 被害車両 原動機付自転車(倉敷市む四〇一九)
右運転者 原告
(五) 事故の態様 倉敷市老松町五丁目方面から同市川西町方面に向けて、右の事故現場付近を東進中の被害車両の側面に、同車両が進行している道路に右の事故現場において北側からT字型に交差する道路から右折するため被害車両の進路前方に進出した加害車の前部が衝突し、原告は、この事故(以下「本件事故」という。)によつて、左下腿高度挫滅創及び左下腿骨骨折の傷害を負つた。
2 (責任原因)
(一) 被告伊東祐尚は、本件加害車両の所有者であつて、これを自己のため運行の用に供している。
(二) 被告初音は、前記交差点(以下「本件交差点」という。)には、信号機はなく、同被告の進行していた道路の本件交差点入口付近には一時停止の標識及びラインマークがあつて一時停止の交通規制がなされていたのであるから、同交差点に進入するにあたつては、右ラインマークの位置で一時停止し、自己の進路と交差する道路上を走行する優先車がないことを十分に確認し、もつて、交通事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、一時停止をすることなく漫然と加害車両を本件交差点内に進出走行させたことによつて本件事故を惹起せしめたものであつて、同被告には、本件事故について過失がある。
3 (損害)
(一) 休業損害 一五〇万六五八一円
原告は、本件事故前は、主婦として家事労働に従事するほか農業にも従事し、またパートタイマーとして勤務し、少なくとも原告の当時の年齢三九歳の女子の平均給与一か月一五万六四〇〇円を下らない収入があつたところ、本件事故による負傷のため、昭和五七年一二月一一日から同五八年九月二九日までの二九三日間病院への入通院を繰り返し、その間右の家事労働、農業、パートタイマーとしての仕事に全く就くことができなかつた。右期間中の原告の休業損害は次の計算式のとおり一五〇万六五八一円となる。
156,400円×12×293/365=1,506,581円(円未満切捨)
(二) 逸失利益 一七三三万八七四四円
原告は、右障害の後遺症として、左足関節の背屈が自動でマイナス二〇度、他動でマイナス一〇度(正常可動範囲は通常〇度からプラス二〇度)となり、正常可動範囲の機能が完全に喪失し、右足関節の拘縮、強直のため、ほぼ機能回復が見込めないばかりか左下肢露出面に一五センチメートル以上の線状痕等の醜状障害が残つてしまつた。このため、原告は、現在でも左下肢の熱感、腫脹を伴う運動(歩行)障害、左足しびれ感に悩まされ、左踵がほとんど曲がらないため、歩くとき跛行せざるを得ず、二〇分間くらい歩くと脹れて傷が痛み、また冷えるときも傷が痛むような状態であるところ、これらの後遺症は、自動車損害賠償保障法施行令別表第八級の7の一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの及び下肢の露出面の醜痕に該当し、合併後遺症として同表第七級の後遺障害に該当し、その労働能力喪失率は五六パーセントである。そして、原告は、右後遺障害が確定した昭和五八年九月二九日当時四〇歳であり、当時の四〇歳の女子の平均給与は月額一五万四八〇〇円で就労可能年数は六七歳までの二七年間であるから、四〇歳の女子が五六パーセントの労働能力を喪失した場合の逸失利益は次の計算式のとおり一七四八万〇四六一円となる。
154,800円×12×16.804(新ホフマン係数)×0.56=17,480,461円(円未満切捨)
このうちから原告の誕生日以降症状固定日までの一一七日分一四万一七一七円を控除した原告の逸失利益は一七三三万八七四四円となる。
(三) 入通院慰藉料 一四〇万円
原告の前記入通院の期間からすれば、入通院を余儀なくされたことによつて原告が被つた精神的苦痛に対する慰藉料の額は一四〇万円を下らない。
(四) 後遺障害慰藉料 六六九万円
原告は、前記の後遺障害によつて多大の精神的苦痛を被つたが、その精神的苦痛に対する慰藉料の額は六六九万円を下らない。
(五) 入院諸雑費 一四万円
原告は、本件事故による障害の治療のたろ一四〇日間の入院を余儀なくされたが、右期間中の入院雑費は一日一〇〇〇円が相当である。
(六) 弁護士費用 二七〇万七五三二円
原告は、被告らと本件による損害の賠償について交渉をしたが、被告らはこの交渉において全く誠意ある態度を示さなかつたので、原告は、やむをえず、原告訴訟代理人両名に右事件の処理を委任し、その報酬は弁護士会報酬規定によつて決する旨約したが、本件事故との間に相当因果関係にある弁護士費用の額は二七〇万七五三二円を下らない。
よつて、原告は、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して二九七八万二八五七円の損害金及び内金二七〇七万五三二五円に対する本件事故発生の日である昭和五七年一二月一一日から、内金二七〇万七五三二円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五九年一月八日から各支払いずみまでいずれも民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実については、(一)の日時に(二)の場所で(三)の自動車(運転者被告初音)と(四)の原動機付自転車(運転者原告)との間で交通事故が発生したこと及び右事故により原告が負傷したことは認める(但し、傷害の内容は争う。)が、その余の事実はすべて否認する。
2 同2については、(一)は認め、(二)は否認する。
3 同3はすべて争う。
三 抗弁(過失相殺)
本件事故は、交差点における四輪車と二輪車との出合頭の衝突事故であつて、原告運転の二輪車は直進し、被告初音運転の四輪車は右折しようとしたものであるが、原告にも徐行を怠つたことなどの本件事故についての過失があり、その過失割合は三割である。なお、原告は、本件事故による傷害についての治療費その他の損害の填補として、これまでに一七七万三八〇一円の支払いを受けているが、これらについても過失相殺をして、過払い分を他の損害の弁済に充当すべきである。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実のうち、原告に本件事故についての過失があるとの点は否認する。原告の進路と本件交差点で交差する被告初音の進路の本件交差点入口手前には一時停止の標識があつて、その旨の交通規制がなされているところ、このような場合には、原告の進路は優先道路であるというべきであるから、本件事故の際、原告には交差点に進入するにあたり徐行すべき義務はなかつたというべきである。
第三証拠
証拠関係は本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 事故の発生について
請求原因1の事実については、(一)の日時に(二)の場所で(三)の自動車(運転者被告初音)と(四)の原動機付き自転車(運転者原告)との間で交通事故が発生し、右事故により原告が負傷したこと(但し、傷害の内容は除く。)については当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第九、第一〇号証、乙第一号証、原本の存在及びその成立について争いのない甲第五号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、右交通事故の態様及び右事故によつて原告が負つた傷害の内容が請求原因1(五)記載のとおりであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
二 責任原因について
1 請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。
2 前掲甲第九、第一〇号証、乙第一号証及び弁論の全趣旨を総合すると、本件事故現場付近の道路状況は、東西に通じる幅員五・五メートルの道路に幅員六メートルの道路が北側から直角にT字型に交差しており、この交差点の北西隅は高さ二・三メートルのブロツク塀のため南進して交差点に進入する車と東進して交差点に進入する車との相互の見通しは極めて悪い状態であつたこと、本件交差点は信号機などによる交通整理の行われていないものであること、右の東西に通じる道路に北側からT字型に交差する道路の本件交差点手前には一時停止の標識が設置され、路面に一時停止すべき位置を示すラインマークが引かれ、一時停止の交通規制がなされていたこと、本件事故の際、被告初音は、時速約二〇キロメートルで加害車を運転し、右の北側から右交差点に至る道路を南進して本件交差点の手前付近に至つたが、右交差点に進入するにあたり、加害車の速度を時速約一〇キロメートルに減速したものの、前記の一時停止の標識の設置されていた場所で一時停止をせず、かつ交差する道路の左方向の状況のみに注意し、右方向の安全を確認することなく同交差点に進入して右折をしようとしたところへ前記の東西に通じる道路を東進して右交差点に進入してきた原告運転の原動機付自転車に自車前部を衝突させ、もつて本件事故を惹起したとの事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
右認定事実によれば、被告初音は、右交差点に進入するに際しては、一時停止の標識及び一時停止すべき位置を示すラインマークの引かれていた場所で一時停止をすべきであつたし(道路交通法四三条)、進行してきた道路と交差する道路の右方向は前記ブロツク塀のため極めて見通しが悪かつたのであるから、右交差点への進入は、徐行し(道路交通法四二条)かつ左右の安全を確認しながら行なうべきであつたにもかかわらず、これらの注意義務を怠つたものというべきである。
してみると、被告初音には、本件事故発生について、右の各注意義務を怠つた過失があるというべきである。
3 右1、2によれば、被告らには、原告が本件事故によつて被つた損害を連帯して賠償すべき義務がある。
三 原告の損害について
1 休業損害
成立に争いのない甲第二号証及び原告本人の供述並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件事故当時、三九歳(昭和一八年六月五日生れ)の健康な女性であつて、主婦として家事労働に従事する傍ら農業及びパートタイマーとしての勤務にも従事していたところ、本件事故による前記傷害の治療のため、本件事故発生日である昭和五七年一二月一一日から昭和五八年四月二九日までの間倉敷中央病院に入院し、同月三〇日から同年九月二九日までの間同病院に通院し(実通院日数一〇日間)、右の入通院期間中は右傷害による苦痛及び右傷害の治療に専念せざるをえなかつたという事情のため右各労働に全く従事することができなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
そして、右認定の事情、特に原告の従事していた労働の内容、健康状態などに鑑みれば、原告は、右休業期間中、少なくとも原告の当時の年齢である三九歳の女子の平均賃金に相当する休業損害を被つたものと推認するのが相当であり、これを覆すに足る証拠はない。そして、成立に争いのない甲第四号証によれば、本件事故発生当時の三九歳の女子の平均賃金は一か月一五万六四〇〇円であると認められるから(同認定に反する証拠はない。)、右入通院期間中の原告の休業損害は、次の計算式のとおり、一五〇万六五八一円となる。
156,400円×12か月×293日/365日=1,506,581円(円未満切捨)
2 後遺障害による逸失利益
成立に争いのない甲第二、第三号証、第一三号証、原本の存在及びその成立について争いのない甲第五号証、昭和五九年三月二八日に原告の左足の状態を撮影した写真であることにつき当事者間に争いのない甲第六ないし第八号証及び原告本人の供述並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告の前記各傷害の症状は昭和五八年九月二九日に固定し、本件事故による後遺障害として、原告の足関節は不全強直の状態となり、通常の足関節の正常可動範囲は、背屈で〇度から二〇度、底屈で〇度から四五度であるところ、原告の左足関節の可動範囲は背屈が自動でマイナス二〇度、他動でもマイナス一〇度、底屈が自動で四〇度、他動で三〇度の範囲に制限されてしまい、しかも右範囲は正常な足関節における底屈状態の範囲(自動で二〇度から四〇度、他動で一〇度から三〇度の各二〇度の範囲)に限定されていて、原告の左足は常に尖足位(爪先立ち)の状態になつていることなどのため、原告は、正座をすることができないし、歩行の際には跛行せざるをえず、また長時間に亘る佇立や歩行が困難になるなどの生活上の支障を受けていること、原告にはその外に左足関節部の腫脹、熱感、圧痛、運動痛、左足しびれ感及び左下肢露出面に長さ一五センチメートル以上の線状痕等の醜状痕が残るなどの後遺障害が残存していることが認められ、右認定に反する証拠はない。
そこで、右各後遺障害による原告の労働能力喪失率について検討するに、原告は、原告の左足関節が常に尖足位の状態であり、正常な足関節における背屈の状態には全くならないことを理由として、右の左足関節の後遺障害としての機能障害の程度は、自動車損害賠償保障法施行令別表の第八級の七にいう下肢の三大関節中の一関節の用を廃したものに、前記認定の醜状痕は、同表の第一四級の五にいう下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すものにそれぞれ該当し、これらを合わせ考慮すれば、原告の本件事故による後遺障害の程度は同表の第七級の後遺障害に相当するものであつて、原告は、これによつてその労働能力の五六パーセントを喪失した旨主張する。しかし、原告の左足関節が正常の足関節における背屈の状態にはなりえないことは前記認定のとおりであるけれど、足関節の可動範囲には背屈のみならず底屈の範囲も存することからすれば、足関節が完全強直ないしはこれに近い状態となり、その用を廃したものと評価しうるか否かは、障害の存する足関節の可動範囲と正常な足関節の背屈、底屈の可動範囲全体とを比較して検討すべきであつて、足関節の背屈が全くできないことのみをもつて、当該足関節が完全強直又はこれに近い状態となり、その用を廃したものとみることはできないというべきところ、原告の左足関節は、自動、他動とも二〇度の可動範囲が存すること、正常の足関節の可動範囲は背屈で〇度から二〇度、底屈で〇度から四五度であること前叙のとおりであるから、これを比較して検討すれば、原告の左足関節はいまだ完全硬直ないしはこれに近い状態にまで至つているとみることはできず、したがつて、原告の足関節がその用を廃したものと評価することはできないというべきであり、前叙の原告の左足関節の状態は、自動車損害賠償保障法施行令別表の第十級の十一にいう一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すものに該当するにとどまるものといわざるをえない。ただ、前叙の原告の左足関節の可動範囲が尖足位の状態の範囲内に限定されていて、背屈を試みても自動でマイナス二〇度、他動でもマイナス一〇度を上回ることができないこと、右可動範囲が自動、他動とも二〇度にすぎないこと、前記の醜状痕、腫脹、運動痛等の諸症状を合わせ考慮すれば、原告の前記後遺障害による労働能力の喪失は、右別表の第十級に該当する通常の後遺障害による労働能力喪失よりは大きな割合のものであるというべきであり、以上の諸般の事情に鑑みれば、原告の前記後遺障害による労働能力喪失の割合は三五パーセントと認めるのが相当である。そして、原告が昭和一八年六月五日生まれの健康な女性であり、主婦として家事労働に従事する傍ら農業及びパートタイマーとしての勤務にも従事していたことは前記認定のとおりであるから、原告は、右後遺障害がなければ、少なくとも前記症状固定時の原告の年齢(四〇歳)の女子の平均賃金相当額を通常就労の可能な年齢とされている六七歳まで得ることができたものというべきところ、前掲甲第四号証によれば、前記症状固定時の原告の年齢(四〇歳)の女子の平均賃金は一か月一五万四八〇〇円であることが認められるから、原告の前記後遺障害による逸失利益は次の計算式のとおり一〇九二万五二八八円となる。
154,800円×12か月×16.804(新ホフマン係数)×0.35(労働能力喪失率)=10,925,288円(円未満切捨)
3 入通院慰藉料
原告が本件事故による傷害の治療のため昭和五七年一二月一一日から昭和五八年四月二九日までの間倉敷中央病院に入院し、同月三〇日から同年九月二九日までの間同病院に通院(実通院日数一〇日間)したことは前叙のとおりであるところ、右の入通院期間、傷害の程度などの事情を考慮すると、原告の本件事故による入通院慰藉料の額は一三〇万円をもつて相当とする。
4 後遺障害慰藉料
原告には、本件事故による後遺障害として、前記認定のとおりの症状が残存しているところ、前記認定の後遺障害の内容、程度及びそれらが原告の生活に与える影響などの諸般の事情を考慮すると、右後遺障害による原告の精神的苦痛に対する慰藉料の額は四五〇万円をもつて相当とする。
5 入院雑費
原告が本件事故による傷害の治療のため昭和五七年一二月一一日から昭和五八年四月二九日までの一四〇日間倉敷中央病院に入院したことは前記認定のとおりであるところ、右入院期間中に原告が必要とした入院雑費は一日一〇〇〇円をもつて相当とするというべきであるから、その総合計は一四万円となる。
6 過失相殺
本件事故現場付近の道路状況が東西に通じる幅員五・五メートルの道路に幅員六メートルの道路が北側から直角にT字型に交差しており、この交差点の北西隅は高さ二・三メートルのブロツク塀のため南進して交差点に進入する車と東進して交差点に進入する車との相互の見通しは極めて悪い状態であつたこと、右交差点は信号機などによる交通整理の行われていないものであることは前記認定のとおりであるところ、このような交通整理の行われていない見通しの悪い交差点に進入しようとする者は、不測の事態に対処するために徐行すべき義務がある(道路交通法四二条)というべきところ、成立に争いのない乙第一号証によれば、原告は、本件事故の際、前記の東西に通じる道路を時速約二五ないし三〇キロメートルの速度のまま進入したとの事実が認められる。この点について、原告本人は、本件事故の際、原告は交差点に進入するにあたり徐行した旨供述し、証人岡本久美子も同趣旨の証言をするが、右供述及び証言は、原告が本件事故の一か月後に司法警察員に対して任意にした本件事故に関する供述を録取した供述調書である前掲乙第一号証の記載内容と対比し、また前掲乙第一号証によつて認められる原告は、右の司法警察員に対する供述をした際、本件事故の際自分の方も減速すべきであつたと思う旨供述していること、前掲甲第一号証によつて認められる原告は、本件事故の際、衝突地点の進路右斜め前方三・四メートルの場所に転倒し、原告運転の原動機付自転車も衝突地点の進路右斜め前方二メートルの場所に転倒していることなどに照らし、到底措信できず、他に原告が本件事故の際徐行義務を怠つたことについての前記認定を覆すに足る証拠はない。なお、原告は、この点に関し、原告の進路と本件交差点で交差する被告初音の進路入口手前には一時停止の標識があつて、その旨の交通規制がなされているところ、このような場合には、原告の進路は優先道路であるというべきであるから、本件事故の際、原告には交差点に進入するにあたり徐行すべき義務はなかつたというべきである旨主張するが、道路交通法四三条は公安委員会が特に必要があると認めて指定する交差点において、車両などに対して一時停止義務を課し、これと交差する道路を通行する車両などに優先通行権を認めたにすぎず、そのため優先車両に対し、同法四二条の徐行義務まで解除したものではないと解するのを相当とするから、原告の右主張は失当というべきである。
そうすると、本件事故の発生については原告にも過失があるものというべきであり、右の原告の過失に前記認定の本件事故発生の状況等の事情を総合勘案すると、本件事故によつて原告が被つた損害については二割五分の過失相殺をするのが相当であると認められる。なお、成立に争いのない乙第六号証、第七号証の一ないし三、同号証の四の三の<1>ないし<9>、同号証の五ないし一八によれば、原告は、本件事故による傷害についての治療費その他の損害の填補として、これまでに一七七万三八〇一円の支払いを受けていることが認められるが、これらについても過失相殺をして、これによる過払分を他の損害の弁済に充当すべきである。
よつて、前記認定にかかる原告の損害合計一八三七万一八六九円に対し二割五分の過失相殺をした額である一三七七万八九〇一円(円未満切捨)から右の弁済に充当すべき四四万三四五〇円を控除した一三三三万五四五一円が原告が被告らに請求しうべき損害額となる。
7 弁護士費用
原告本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告らから任意の弁済が受けられないため、原告訴訟代理人両名に本訴の提起と追行等を委任することを余儀なくされ、その報酬として弁護士会報酬規定に従つた額を支払う旨約していることが認められる(同認定に反する証拠はない。)ところ、本件事案の難易、前記認容額、本件訴訟の経緯等諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、一三〇万円をもつて相当と認める。
四 以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求は、本件事故による損害賠償として一四六三万五四五一円及びそのうち休業損害、逸失利益、入通院慰藉料、後遺障害慰藉料及び入院雑費の残額合計一三三三万五四五一円に対する本件事故発生の日である昭和五七年一二月一一日から、そのうち弁護士費用一三〇万円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五九年一月八日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める限度で理由があるから、右限度でこれを容認し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 窪田正彦)